研究概要 |
肺癌は本邦において現在最も多い癌死の原因疾患であり,今後もその比率は上昇し,10年後には約2倍(10万人/年)になると考えられている。しかし現段階における治療法としては手術以外に有効な手段が無いのが現状であり,肺癌患者の約30%を占める完全切除症例においても5年生存率は50%程度である。多くの肺癌患者は化学療法や放射線療法などの非手術療法で治療され,平均生存期間は約7-11ヶ月と不良である。以上のことより新しい治療法の開発や予防法の開発が急務であるが,外科手術の安定化とシスプラチンの登場以降,この20年間治療成績を向上させる方法は開発されていないのが現状である。近年,分子標的治療が試みられ,thyrosine kinase阻害剤である,gefitinibやerlotinibが登場したが,その効果は一部のEGFRの変異あるいは増幅のある症例に限られている。この結果より,今後,非小細胞肺癌の遺伝子発現形式によって,治療の選択が行われる可能性がある。また,EGFRの他にも,細胞周期関連の遺伝子である,P27,SKP2,ERBB2,MYCといったものは,その発現が肺癌の予後と相関することが示されており,肺癌治療の標的となりうる。そこで,組織型,喫煙歴,性別など臨床的背景による遺伝子背景の差異に関する調査や,他の分子標的治療剤の開発が求められている。今回我々は,非小細胞肺癌における,MYC,SKP2,EGFR,ERBB2,MIFの遺伝子増幅の状態を観察し,臨床的背景,特に喫煙歴との関連について解析する。更に喫煙関連化学物質が遺伝子増幅に及ぼす影響について検討する。また,これら遺伝子増幅の,非小細胞肺癌術後予後に与える影響について解析し,予後因子の検討や,新たな細胞増殖関連の分子標的治療を探索する。
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