前年度末に、我々は、N-ERC/mesothelin(N-ERC)の新しいELISA系(7-16)を用いた多施設で大規模な臨床研究の結果を報告した(Clin Cancer Res 2008 ; 14(5)March : 1431-1437)。 本年度は、(1)N-ERCと他の中皮腫腫瘍マーカーとの比較、組み合わせによる正診率の検討を行った。また、(2)胸水での検討や、(3)実地臨床での特異度を上げるために、他の癌腫や代謝・排泄に関わる疾患での検討、さらに、(4)大規模研究型検診(東京土建組合との共同研究)での早期発見の可能性の検討も開始した。N-ERC、Osteopontin(OPN)、CA125、CYFRA21-1、Hyaluronic acidの5つの中皮腫腫瘍マーカーを同じ母集団で比較した結果、中皮腫及び上皮型(中皮腫の6割を占め組織型)の腫瘍マーカーとして、N-ERCが最も優れたマーカーであることが証明された。組み合わせにおいては、N-ERCとOPN、または、N-ERCとCA125が統計学的に選択されたが、文献上、OPNの特異度が低いこと(中皮腫以外の他の癌腫や炎症で高値を示す)、またCA125の上乗せ効果軽度であることから、現時点では、血液腫瘍マーカーとしては、N-ERC単独が最も勧められるという結論が得られた(2009年7月、世界肺癌学会で発表予定)。(3)に関しては、N-ERCが、肝機能の影響を受けないこと、また、GFR(糸球体濾過率)によるStage分類とN-ERCの血中濃度に強い相関が認められることで、N-ERCが腎機能の影響を受けることが示唆された(2009月呼吸器外科学会で発表予定)。 (4)に関しては、検診でN-ERCの血中濃度が高値で、かつ順天堂アスベスト中皮腫外来を受診した20名中、1名に、腹膜中皮腫が発症前診断された。 (2)に関しては、症例集積中である。
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