神経膠腫は成人脳腫瘍で最も頻度の高い疾患であるが、その治療成績はいまだ極めて不良である。近年、Cancer Stem Cell theoryが提唱され、悪性神経膠腫においても腫瘍幹細胞が存在するという報告がなされている。低酸素環境の指標であるHIF-1αの発現は神経膠腫の悪性度と相関があると報告され、また神経膠腫の中で最も悪性度の高いglioblastoma multiformeの特徴的な病理像であるnecrosisは低酸素環境の結果生じていると考えられることから、腫瘍内の低酸素環境は治療抵抗性と密接に関わっている可能性が考えられる。ここで興味深いことに正常の神経幹細胞は低酸素環境において細胞数が増加することが報告されている。脳腫瘍幹細胞は神経幹細胞の性質を共有することが知られていることから、低酸素環境が神経幹細胞だけでなく脳腫瘍幹細胞の増殖に寄与していることが考えられる。そこで今回「腫瘍内低酸素環境は、脳腫瘍幹細胞を増加させることにより悪性神経膠腫の治療抵抗性をもたらす」という仮説を着想し検討した。本年度はHIF-1αの発現と腫瘍幹細胞マーカーの一つであるnestinの発現の相関を、手術サンプルにて検討した。その結果、HIF-1αが高発現域ではnestin陽性細胞がその他の部位よりも多く認められる傾向がみられた。さらに、神経膠腫細胞株を低酸素環境にて12時間培養したところ、HIF-1αとnestinタンパク質の増加がwestern blotにて確認された。今後は、腫瘍サンプル内の酸素濃度分布を検討するとともに、長期の低酸素暴露が細胞に与える影響について検討したいと考えている。
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