研究概要 |
【目的と方法】神経膠芽腫の浸潤に寄与する分子を同定するために、神経膠芽腫19症例の凍結切片から非浸潤細胞と、浸潤細胞をlaser capture microdissectionにより取り分けた。それぞれRNAを抽出し、Microarrayを用いて遺伝子発現プロファイルを作成後Pathway enrichment analysisにより浸潤に関連するシグナル伝達経路を同定した。171例の神経膠腫手術材料において浸潤関連候補遺伝子の発現レベルを測定し、腫瘍悪性度および臨床的予後との相関を検討した。4種類の神経膠腫細胞株(U87,T98G,U251,SNB19)を用いて候補遺伝子の発現を調べ、分子生物学的手法を用いて候補遺伝子の機能を検討した。 【結果】Eph(エフリン)B受容体/ephrin-B リガンドが浸潤に最も寄与するシグナル伝達分子群であることが示された(p=1.59E-06)。Eph/ephrinは受容体、リガンドともに膜型蛋白のチロシンキナーゼで、相互のシグナルは細胞の反発作用を惹起し、胎児期神経発生における細胞遊走に重要な役割を果たすことが知られている。3種類のephrin-Bのうちephrin-B1とB2の発現が、正常脳(n=24)と比較し神経膠芽腫(n=82)で有意に高かった(P<0.01)。Kaplan-Meier予後解析では、悪性神経膠腫においてephrin-B2高発現群が予後不良であった(n=97,p=0.016)。神経膠腫細胞株ではephrin-B2のリン酸化に伴いin vitro、ex vivoで遊走・浸潤能は亢進した。さらにephrin-B2の阻害抗体によりin vitro、ex vivoで神経膠腫細胞株の遊走・浸潤能は抑制された。 【結論】ephrin-B2の発現異常が神経膠腫の浸潤に関与しており、過剰発現が予後不良因子となることが示唆された。我々は神経膠芽腫に高発現するEphB2受容体が神経膠腫浸潤を促進することをすでに報告しており、Eph/ephrinシグナルが神経膠芽腫の浸潤能を亢進させ悪性化に寄与していることを明らかにした。
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