研究概要 |
【目的】Eph受容体/ephrinリガンドは最も多くのファミリー分子を有し両方向性のシグナル伝達を惹起する膜型チロシンキナーゼであり、神経膠腫の悪性化に関与していることが明らかとなっている。これまでにEphB/ephrin-Bシグナルの浸潤促進作用は我々の研究により示されたが、EphA/ephrin-Aの機能については不明な点が多い。そこで我々は神経膠腫浸潤におけるEphA/ephrin-Aの働きについて検討し、Eph/ephrin分子の臨床的意義について考察した。 【方法】171例の神経膠腫の手術摘出標本を用い、定量的RT-PCRにてすべてのEph(13種類)/ephrin分子(8種類)の発現をスクリーニングし予後との相関関係を検討した。また、4種類のヒト神経膠芽腫細胞株を用いてEphA/ephrin-Aの発現を調べ、EphA/ephrin-Aのノックアウトおよび強制発現による遊走浸潤能の変化を観察した。 【結果】Kaplan-Meier解析により、神経膠芽腫症例において予後との相関を認めたのはEphrin-A2リガンドの発現のみであり有意な予後良好因子であった(77例、p=0.0069)。Ephrin-A2高発現細胞株(SNB19, U251)においでephrin-A2発現抑制細胞株では遊走・浸潤が促進された。また、Ephrin-A2/Fc chimera刺激で濃度依存性に遊走・浸潤が抑制された。一方、Ephrin-A2低発現細胞株(U87, T98G)においてephrin-A2強制発現細胞株ではEphAの発現の高いT98Gで遊走・浸潤が抑制された。 【結論】Ephrin-A2は、EphAシグナルを介して神経膠芽腫浸潤に抑制的に働くことが示唆され、臨床上有用な予後規定因子になりうると考えられた。これまでの我々の研究からEphA/ephrin-AとEphB/ephrin-Bは神経膠芽腫の浸潤において逆の作用を有し両者のバランスで浸潤が制御されている可能性が示された。
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