中枢神経系においては、発生段階や幼少期のみでなく、成人(獣)においても神経幹細胞が存在し、海馬および側脳室周囲に多く存在することが近年明らかになっている。また、げっ歯類では側脳室周囲からは嗅球に向ってRostral Migratory Stream : RMSと呼ばれる神経幹細胞の移動が存在し、これが生涯を通じて嗅球の神経回路の構築に携わっていることが知られている。 本研究ではこの神経幹細胞から常に神経が供給される嗅覚系の特徴を利用し、梗塞等の器質的障害時に神経幹細胞がどのような動態を示すのかを明らかにしようとしたものである。 (1) Adultラットでは一度嗅球全体に障害が及び神経回路が障害を受けるとRMSを通じて供給された神経幹細胞があっても機能が回復しないことが明らかとなった。一方、嗅球の微小梗塞モデルでRMSにまで障害が及ばない嗅球一部障害の際には嗅球の他の部位に大きな変化が認められなかった (2) 幼少期ラットでは嗅球に対して一定の梗塞を構成することが難しく、嗅球除去後の神経幹細胞の動態を観察したが、幼少期の場合は嗅球全体が除去されてもRMSから供給された神経幹細胞が断端付近で嗅球の糸球体様構造を新たに構築し、嗅覚機能が再生することが明らかとなった。また嗅球除去の際、RMSにまで障害が及ばない不完全除去の場合には、正常と同様の嗅球内構造を示すものがあった。 これらのことより、嗅球の微小な部分的障害では嗅球内の構造に大きな変化は認められないが、嗅球全体に障害が及ぶ場合には新生児期のラットでは嗅覚機能が再生する可能性があることが明らかとなった。
|