脳磁図による脳虚血性疾患の神経機能評価として、A)脳主幹動脈閉塞性疾患患者における潜在的な脳機能異常の検出、B)脳虚血後の運動機能回復過程を目的に昨年度の研究を継続した。 A) 明らかな運動障害のない主観動脈閉塞性疾患38例を対象として、2種類の手指運動課題での局所脳律動変化(β帯域の脱同期現象)の強度と局在を解析し臨床像と対比した。その結果、動脈硬化性閉塞性疾患例で、病変と対側の手による運動時に運動肢と同側半球に強い律動変化が検出される同側分布現象が観察された。これは通常とは逆の分布パターンで、健常例や非動脈硬化性の血管病変例では観察されなかった。動脈硬化性疾患群内での比較で、同現象を呈した例では年齢とMRIでの白質変化や脳室拡大といった形態学的な変化が有意に高度であった。更に解析を加えると、同現象は血管病変側の律動変化の低下は伴わず、同側半球に過剰な律動変化が生じていることが判明し、血管病変側からの半球間抑制機能の障害に起因すると考察した。本現象は動脈硬化性虚血病態下の潜在的な機能異常を反映するもので、虚血病変に伴う脳機能障害の早期発見に応用できる可能性が示唆された。本知見は国際誌"Stroke"に論文公表した。 B) については、脳虚血後患者15例で障害側の手の運動時の局所律動変化を同様に定量解析し、6例では回復過程での経時的な変化も検討した。その結果、患側半球で律動変化が低下する例や同側半球で増強する例など多様なパターンを示したが、いずれでも律動変化が広範化する現象が多く観察された。更に運動機能回復に伴い、広範に分布していた律動変化がより限局化する傾向が共通してみられた。これらの所見は、脳損傷後及び回復過程の機能変化を反映しており、機能回復を目的とした新たな治療法の開発に応用できる可能性がある。尚、同知見は生体磁気学会大会、脳卒中学会等で発表した。
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