研究概要 |
われわれの皮質静脈閉塞モデルを用い,ペナンブラ類似状態において,コルチカル・スプレディング・デプレッションを発生させ,その発生数および伝播速度に与えるカルベノキソロン脳室内投与の効果を検討したところ,カルベノキソロンは,スプレディング・デプレッションの発生数および伝播速度に影響を与えないことが明らかになった。またレーザードップラーを用いて測定した脳血流も増加せず,静脈閉塞を行わずに,すなわち脳血流が正常の状態で同様の検討を行った際にスプレディング・デプレッションの発生数,伝播速度,および脳血流がそれぞれ増加した結果と異なった。これは静脈閉塞に伴い,脳血流が低下し,スプレディング・デプレッションを発生させる十分なエネルギーが供給されないためと考えている。また,静脈梗塞体積を術後7日で測定すると,カルベノキソロン投与群では,有意に梗塞体積が増加することが明らかとなった。また投与1日後の梗塞体積と,7日後の梗塞体積では有意差がなく,また,カルベノキソロンのスプレディング・デプレッションおよび脳血流に与える影響は脳室内投与後約60分で消失するために,この梗塞体積増加は,カルベノキソロン投与急性期の,ギャップジャンクションブロッカーとしての効果であると考える。スプレディング・デプレッションは,その発生時に細胞外カリウムおよびグルタミン酸濃度を急激に上昇させることが知られており,それらのアストロサイトによるバッファリングが,カルベノキソロンにより障害され,その細胞毒性により梗塞体積増加につながったと推測している。発生した脳梗塞に対する治療は,虚血の核の周囲に広がるペナンブラ領域における神経細胞死をできるだけ抑制することにある。この研究により,ペナンブラ領域におけるグルタミン酸再吸収に関わるギャップジャンクションの役割が明らかになれば,脳梗塞拡大の治療法の開発の一助となると考えている。
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