組織工学的手法を用いて大型骨組織を再建するための基礎技術に関する研究を行った。大型骨組織を再建するための細胞ソースとしては骨髄間葉系細胞(MSC)を用いるが、大型の骨組織を再生するために必要な細胞数まで細胞を増殖させると、細胞の分化能、骨形成能が低下する。そこで、我々は骨芽細胞への分化誘導に用いられるデキサメサゾンを分化の方向性を既定するための因子ではなく、MSCの分化誘導への反応性を高める因子であり、分化誘導時のみならず、MSCの培養期間中に継続的に添加することで、より分化能の高いMSCが得られると仮説をたて検証を行った。その結果、継続的にデキサメサゾンを加えてMSCを培養することにより、骨芽細胞系への分化能が高いだけでなく、骨形成能や軟骨系、脂肪系への分化能も高いMSCが得られることを確認した。このようにして得られたMSCは細胞の担体となる多孔質材料に導入して生体内に移植することになるが、効率よく多孔質材料に細胞を導入ることは重要である。我々は古くから行われている低圧を利用した細胞導入法を改変することで、細胞導入効率を約2倍に向上すること、および形成される骨の量が2倍以上に増加することを確認した。また、細胞を担体内に導入する場合、一般的には培養液に細胞を浮遊させて導入し、細胞が担体に接着した後(数時間)に移植に用いる。我々は、培養液の代わりに自己血漿に細胞を浮遊させ、担体に導入する導入方法を考案した。導入された細胞浮遊は、導入後ただちにゲル化するため、細胞の接着を待たずに移植できる。さらに血漿を使用して細胞を道入した場合、培養液を用いて細胞を導入した場合に比較して、約1/10の細胞数で同等の骨形成が得られることを確認した。必要細胞数を減らす技術はMSCを使用して大型骨組織を再建するために重要であると考えられる。
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