これまでに椎間板性腰痛患者の変性椎間板においてNGFをmRNAおよびタンパクレベルで定量的に評価した報告はない。2007年度の実験では、椎間板性腰痛患者から術中採取したヒト腰椎椎間板を組織培養し、その培養液中に含まれるNGFタンパク量をELISAにより定量評価した。その結果、腰痛に対し後方椎間板固定術(Transforaminal lumbar interbody fusion)を施行した腰痛患者の椎間板(n=7)におけるNGFタンパク発現量は、タンパク量あたり、線維輪18.7±3.0(pg/ml)、髄核5.4±9.5(pg/ml)と、線維輪で高値を示した。一方、外傷に対する手術により椎間板切除を行った症例(n=1)では、線維輪1.3(pg/ml)、髄核1.7(pg/ml)とNGFタンパク発現量が著しく少なかった。また椎間板ヘルニアにより椎間板切除術を施行した患者(n=2)では、線維輪2.7±0.1(pg/ml)、髄核8.8±0.8(pg/ml)と髄核で高い傾向にあった。 NGF抗体を用いた免疫組織染色では、腰痛患者の椎間板組織では、線維輪および髄核のいずれにおいても、非腰痛患者(椎間板ヘルニアおよび外傷)のものと比べ、NGF陽性細胞が多く分布しており、変性椎間板に侵入したと思われる血管においても、その発現が確認できた。 以上の結果から慢性腰痛患者においてはNGFタンパク発現量が高く、線維輪の方が髄核よりも多く産生している可能性が示唆され、腰痛発症には線維輪の関与が大きいことが考えられた。さらに症例数を増やして検討していく必要があると考えられる。
|