肩腱板広範囲断裂に対する新しい治療として、人工材料を用いた再生医療研究が行われているが、培養細胞を播種したscaffoldを用いる場合には、細胞の採取・培養とその埋め込みという2段階の手技が必要となる。昨年度までに生体吸収性高分子ポリ-L-乳酸(PLLA)を用いたscaffoldで力学的には腱板修復モデルと同等の力学的回復過程を再現できること確認した。本年度は更に形状を工夫することにより、細胞を播種することなく、生体内に存在する細胞をscaffold内に誘導できると考え、新しい腱板修復材料の開発を試みた。PLLAを使用し、表面は平滑で内部が起毛状になっているチューブ型のscaflbldを作成した。日本白色家兎の棘下筋付着部に5mmの欠損を作成して、scaffoldを挿入・縫合した。術後2、4、8週で引っ張り試験を行い、再生した腱板の最大破断強度を測定して、力学的に解析した。また、術後4および8週でH-E染色および1型、3型コラーゲンによる免疫染色を行い、組織学的解析を行った。力学的評価では、scaffoldを挿入した群の最大破断強度は術後2週で31N、4週で55N、8週で69Nであり、ANOVA検定にて有意に強度が増加していた。再生腱板は肉眼的には厚い組織であり、scaffold内部には紡錘型の細胞が配列して線維組織を形成していた。一方、健付着部において線維組織が直接骨に連続していた。免疫染色では再生腱板内部の線維組織は3型コラーゲンが主体であった。チューブ型のscaffoldには細胞を播種しなくてもscaffold内部に細胞の接着がみられ、関節内外から細胞がscaffoldに誘導されたと推察された。力学的には術後8週で正常腱板と同等の破断強度を有していたが、腱付着部は健常な腱板のように線維軟骨を介した組織像ではなかった。今後、長期の検討とscaffoldの改良が必要と考えられた。
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