研究概要 |
高齢化社会を迎え、変形性関節症などの関節疾患は増加する一方であり、その治療法の開発は臨床的に大きな意義を持つ。近年、関節軟骨分化、再生に関するメカニズムの理解がすすんでいるが、関節の発生そのものに対する知見の集積は十分でない。われわれは、細胞外マトリックスのひとつであるヘパラン硫酸(Heparan sul fate : HS)を、肢芽特異的に欠損させることにより、関節を欠いた変異マウスを得ることに成功している(変異マウス)。本研究では、この変異マウスを用いて関節発生の分子メカニズムを解析することを目的とする。 肢芽の形成には、肢芽の遠近(指〜肩)、前後(母指〜小指)、背腹軸といった初期パターン形成、引き続く前軟骨性凝集(Precartilagenous Condensation ; PCC)が重要である。平成19年度の解析で、変異増マウスにおいては初期の遠近パターンは保たれていること、その一方で、PCCの分節化が生じていないことを見いだした。 PCCの文節化、すなわち位置価の指定ははHox遺伝子によって行われる。よって変異マウスにおけるHox遺伝子の発現をホールマウントin situ hybridization法(ISH法)で検討した。その結果、変異マウスにおいてもHox遺伝子の発現は正常であることを確認した。また、初期の軟骨細胞のマーカーであるSox9やColIIを用いてISH法を行い、変異マウスでは本来関節となるべきPCC中央部の中間細胞層の部位でもSox9, ColIIの発現が消失していないことも見いだしている。これらの結果は、変異マウスにおいては、PCC内の位置価指定といったCell autonomousなstepではなく、細胞表面でのHSの欠失のため周辺の環境から細胞への情報伝達に異常が生じるために中間細胞層の形成が生じていないと考えられた。
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