研究の目的 : Runx2は、骨葉細胞及び軟骨細胞の成熟を強力に促進する転写因子である。我々はRunx2欠損マウス由来の軟骨細胞にアデノウィルスを用いてRunx2を導入し、マイクロアレイ法によってRUNX2の下流遺伝子を検索した結果、ムチン型糖鎖を形成するポリペプチドN-アセチルガラクトサミン転移酵素3(Galnt3酵素)が同定された。 GALNT3遺伝子の突然変異は、高リン血症ならびに皮膚と皮下組織における異所性のカルシウム沈着を特徴とする家族性腫瘍状石灰症と関連があることが報告された。 そこで本研究ではGalnt3遺伝子欠損(Galnt3-/-)マウスの作成/解析を通し、GALNT3の生理的機能を明らかにすることを本研究の目的とした。 研究成果 1-GaInt3-/-マウスの一般的解析 : GALNT3は、近位尿細管においてリンの再吸収を抑制するFGF23に糖鎖を付加、その蛋白切断による不活化を阻害し、活性型FGF23の分泌に重要な働きをすることが明らかとなった。すなわち、家族性腫瘍状石灰症は、GALNT3の活性低下によりFGF23の切断、不活化が促進され、高リン血症ならびに異所性のカルシウム沈着が引き起こされると考えられる。Galnt3-/-マウスは高リン血症の患者と相似したフェノタイプを示し、血清中のリンは、野生型マウスより高濃度であった。またELISA法で測定した血清中のFGF23は野生型マウスに比べて減少していたが、異所性石灰化はみとめなかった。 2-骨格におけるGALNT3の機能評価 : 8週齢と17週齢の成獣マウスから大腿骨を摘出し、microCT解析した結果Galnt3-/-マウスは野生型マウスに対して骨量、海綿骨数が増床していることがわかった。 研究意義・重要性 : 我々は、GALNT3が軟骨細胞に発現していることを見出している。しかし軟骨におけるムチン型糖鎖の機能を明らかでは無い。RUNX2は変形性関節症の発症に関与しており、RUNX2によって誘導されるGALNT3がムチン型糖鎖を付加することにより、変形性関節症の発症に関与する可能性がある。したがって、この研究によって今後得られる知見は、変形性関節症の治療・予防法の開発に結びつく可能性がある。
|