研究概要 |
プロテオミクスアプローチにより末梢神経損傷後に神経内に発現するタンパク質を経時的、包括的に探索し、その変化を検討した。 ラットを用いて坐骨神経を切断した切断群と展開のみを行ったシャム群を作成した。切断群は術後5, 10, 35日後に神経を切断近位、遠位を各々断端を含めて1cm摘出し、シャム群は術後5日で1cmの神経を摘出した。摘出した神経を抽出バッファーに溶解し、可溶性画分と不溶性画分の両者を1次元電気泳動した後、タンパク質が泳動した部分のゲルを全て切り出した。トリプシンを用いてゲル内消化を行った後、質量分析器で解析を行いタンパク質を同定した。 1cmの坐骨神経からシャムでは約900種、切断群では1000種のタンパク質が同定された。各々のステージで発現するタンパク質を分子機能や生物学的プロセスに沿って分類したが、著明な差は見られなかった。しかし、末梢神経切断後に時期、および部位特異的に発現が増加するタンパク質を複数同定することができた。そのうち、切断後10日の近位で発現が増加するa-FGFは末梢神経再生を促進する働きがあり、GAP-43は軸策伸張、シナプス形成などに関与している分子であった。また切断後5日の遠位で増加するPN-1, prosaposinはいずれも神経再生を促進する働きを持っていた。このように、ある特異的な発現様式を示すタンパク質には神経再生に関わる分子が含まれていることが分かった。
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