研究概要 |
「骨基質中の骨細胞ネットワークが骨代謝の制御を決定する重要な因子である」という知見に基づき, 今年度は以下の研究を行った. 研究結果をもとに, 骨細胞ネットワークの損傷や骨細胞の機能変化による骨リモデリング制御のメカニズムについて総括した. (1)機械的損傷による細胞死の伝播と細胞間ネットワークの働き 昨年度に確立した, 骨細胞ネットワークに対して顕微鏡下で機械的損傷(スクラッチ)を与えることができる系を用いた. 細胞間ネットワークを形成するように平面培養した骨細胞に対してスクラッチを与えたところ, スクラッチを直接受けた細胞はすみやかに細胞死(ネクローシス)を起こし, その周囲の細胞ではミトコンドリア膜電位の消失, アポトーシスの進行が認められた. またギャップジャンクションをブロックして細胞間情報伝達を阻害すると, アポトーシスの伝播が広範囲に拡大することが明らかとなった. (2)機械的損傷を受けた骨細胞が破骨細胞の分化に与える影響 コラーゲンゲルに包埋して三次元培養した骨細胞に繰り返し伸張刺激を与えて機械的損傷を誘引したところ, 引張りによる細胞死が増加するにつれてM-CSFおよびRANKLの産生が増加した. これらの因子の産生増加とともに, 培養液上清を添加した未分化骨髄細胞の培養において破骨細胞の分化が増加していた. 細胞間情報伝達を阻害すると破骨細胞の分化はさらに増加した. (3)骨細胞が産生する因子に関するタンパク質アレイ分析 繰り返し伸張刺激による機械的損傷が骨細胞のタンパク質産生に与える影響を調べるため, タンパク質アレイによる分析を行った. 116タンパク質がスポットされたアレイを用いて実験したところ, 21について変化が認められた. 以上の結果から, 骨細胞ネットワークによる細胞間情報伝達は骨細胞の抗アポトーシスと関連しており, 骨細胞自身の生存, さらには破骨細胞の分化と骨吸収開始に関与していることが明らかになった.
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