研究概要 |
今回われわれは,脊髄損傷に対して今まで成し得なかった急性期治療(炎症波及の抑制)と慢性期治療(軸索再生の促進)の同時解決を図るため,(1)神経幹細胞の生存,増殖力の促進(2)軸索の再生促進および(3)炎症波及の抑制効果を併せもつグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤(GSK3β-inhibitor)に注目し,本剤を脊髄損傷後に投与すること,また神経幹細胞移植療法などの細胞移植療法と併用することで更なる損傷軸索の再生や運動機能回復が得られるのではないかと期待し,研究を遂行した。まず,GSK3β-inhibitorを脊髄損傷マウスに投与することにより,その様々な有効性を確認し,脊髄損傷患者への新たな治療薬として応用されることが最終的な目標である。 平成19年度は,マウス脊髄損傷モデルに対するGSK3β-inhibitor投与による運動機能の回復の確認と軸索再生促進効果の確認を行った。 成体マウス(C57/Bl6)の雌に対して,IH impactorを用いて重錘落下法により定量的に胸髄圧挫損傷モデルを作製する。損傷後より5日間,GSK3-inhibitorを1日2回腹腔内投与する群と生食のみを投与する群(対照群)の2群を作る。これらのマウスに対して,8週間生存させ,損傷後経時的にBBB scoringを行い,投与群と対照群で比較を行った。また,これらの2群のマウス脊髄の組織学的考察を行い,おもに再生軸索について比較を行った。 その結果,薬剤投与群では,対照群に比べ損傷2週後という比較的早期から有意な下肢運動機能の回復が認められ,また組織学的考察から投与群で対照群に比し有意な軸索再生とGFAP陽性アストロサイトによる損傷部グリア瘢痕で囲まれる損傷部空洞の面積の縮小が認められた。 平成20年度は,これらの結果をさらに詳細に検討し,本薬剤による機能回復のメカニズムを追究する予定である。
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