アドレノメテュリン(ADM)は、CGRPファミリーと呼はれる神経ぺフチド群を構成する代表的な物質であり、ショック、エンドトキシン血症、心不全、心筋虚血などの心血管系が障害される病態において血中に分泌され、生体のホメオスターシスの維持に重要な役割を担っている。その作用は、血管拡張、陽性変力作用、抗炎症作用、心筋保護作用など多岐に及ぶ。特に、血管拡張、陽性変力作用の作用機序は、Gs-adenylate cyclase-cAMP系であり、麻酔薬により抑制される可能性がある。そこで、ADMによる心血管系への作用に及ぼす、揮発性麻酔薬イソフルラン・セボフルランの影響を、中枢破壊ラット(pithedrat)で検討した。その結果、イソフルランおよびセボフルランは、ともにADMによる一過性の血圧上昇よ抑制し、引き続きおこる血圧低下を容量依存的に抑制し、さらに末梢血管抵抗の低下を有意に抑制した。したがって、揮発性麻酔薬イソフルラン・セボフルランはADMによる血管拡張作用を抑制すると結論した。以上、European Journal of Anaesthesiologyに投稿し、2008年1月受諾された。 一方、ADMによる心筋保護作用、および抗炎症作用について検討し、さらに、それらの作用に麻酔薬がどう影響するかを、予定開心術患者において検討中である。人工心肺を使用し心停止下に施行される開心術では、人工心肺中から術後にかけて、心筋障害マーカーとして感度の高いトロポニンIの上昇や、全身性炎症反応の惹起により、エンドトキシン血症、高サイトカイン血症といった炎症反応が引き起こされることに着目し、それらのマーカーとADM血中濃度を測定してその関連性を検討中である。また、揮発性麻酔薬は、静脈麻酔薬のプロポフォールに比し、より効果的な心筋保護作用、抗炎症作用を有しているという報告が多いが、ADMと心筋保護作用、および抗炎症作用との関係に麻酔薬がどう影響しているかを調べた報告はなく、セボフルラン麻酔とプロポフォール麻酔での差を検討中である。
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