本研究では、GABAの合成が抑制されたマウス(以下GAD65-/-mouse)を用いて、行動・電気生理学的手法を用いて調べ、痛覚情報伝達におけるGABAの役割(脱抑制)と、麻酔・鎮痛薬のシナプス修飾作用における前終末からのGABA releaseの関係について調べた。 (方法)急性侵害刺激(熱刺激)に対する疼痛行動反応の違いをWTと比較した。逃避の潜伏時間:52度のhotplateの上で後肢をなめるまでの時間や、hot water immersion testにより、尾の逃避反応時間を計測した。また、ホールアニマル脳・脊髄神経細胞からのパッチクランプ法により、抑制性シナプス後電位を測定した。 (結果)Hot-plate上での逃避反応時間は、GAD65-/-mouseでWTより有意に短縮しており、侵害受容反応において野生型と差が見られた(P<0.01)。さらに、GABA transpoter 1 inhibitorを腹腔内投与しておくと、逃避反応時間がいずれの型においても延長した。しかし、water immersion testでは、差はなかった。抑制性シナプス後電位の測定では、phasic componentは野生型、GAD65-/-mouse間で差はみられなかったが、tonic inhibitionはGAD65-/-mouseで減少していた。 (考察)2つのタイプのマウス間で、脊髄反射を介する逃避行動に差はみられなかったが、上位中枢を介する逃避行動に差があった。GABA合成酵素の抑制により、抑制性シナプスにおけるGABA放出が減少したことが原因と考えられる。さらに、GABA traspoter 1 inhibitor投与により逃避反応時間が延長することも、上位中枢における抑制性シナプスにおいてGABAが侵害受容反応に重要な役割を果たしていることを示している。また、電気生理学的解析でtonic inhibitionに差があったことから、侵害受容反応に対するシナプス外のGABA受容体の関与が示唆された。
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