本研究は、「脳由来神経成長因子(BDNF)および BDNFによるシグナル伝達に抑制に関わる麻酔薬を蛍光イメージ法で直接観察する手法の開発」を目的としている。本研究では、本年度中にまず「蛍光色素ラベルを導入したBDNFと麻酔薬の生細胞上の動態を可視化する」ことを予定していた。当初の計画では、1分子レベルで蛍光ラベルしたBDNFが、nerublastoma由来細胞SH-SY5Yに結合する過程を、対物レンズ型全反射蛍光顕微鏡を用いて観察するために、まずはBDNFへ長時間観察可能で幅広い励起波長をもつ量子ドット(Qdot)蛍光ラベルを行い、生きた細胞上のQdot融合BDNFの観測・測定を行う予定であった。しかし、予想外の問題として、量子ドット(Qdot)のBDNFへの融合が難しく、通常の融合過程ではBDNFの生体試料としての活性がほとんど失われるといったこと、また融合過程に使用される触媒が細胞毒性をもつため、融合過程後に精製を行わなければならないといったことが生じた。これに対して、新たな量子ドット融合方法、精製方法の改良を行い、その結果、活性を保持したQdot融合BDNFの新たな合成・精製法を立案し実施している。現在、Qdot融合BDNFの観測・測定のために顕微鏡の改良を行っている段階である。Qdot融合BDNFの新たな合成・精製法を確立したという意味では意義深く、そのほかの神経成長因子への応用が可能であるため重要な研究成果といえる。
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