本研究は組織障害性、シナプスの可塑性に関与すると考えられている活性酸素が神経因性疼痛発症のメカニズムに関与するかどうかを明らかにすることを目的とする。 マウス脊髄スライス標本を用い、内因性活性酸素の一つである過酸化水素が脊髄後角膠様質(SG)細胞のシナプス伝達に与える影響を、電気生理学的手法パッチクランプ法を用い検討した。灌流液に混合して急性投与した過酸化水素は、濃度依存性にまた、可逆性にSG細胞のGABA受容体介在性微小後シナプス電流の頻度を増加させたが、電流の減衰時間には変化を与えなかった。また、活性酸素のスカベンジャーであるカタラーゼの灌流投与により、過酸化水素の効果は完全に抑制された。しかし、膜透過性のないスカベンジャーであるグルタチオンを細胞内液に投与しても過酸化水素の効果は抑制されないことから、過酸化水素の効果は前シナプス性であることが示唆された。過酸化水素による頻度増加のメカニズムを検討するために、シナプス前細胞のカルシウム貯蔵放出のブロッカーを用いた検討を行った結果、小胞体におけるカルシウム放出に関与するIP3受容体のブロッカー、2APBが、過酸化水素の効果を抑制することが明らかになった。 本研究により、活性酸素の一つである過酸化水素が、侵害受容伝達に重要な役割を果たすと考えられているSG細胞のシナプス伝達を変化させることが明らかとなった。また、そのメカニズムにIP3受容体が関与することも明らかになった。これらの結果より、IP3受容体が神経因性疼痛発症のメカニズムに関与する可能性が示唆された。
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