本研究は組織障害性、シナプスの可塑性に関与すると考えられている活性酸素が神経因性疼痛発症のメカニズムに関与するかどうかを明らかにすることを目的とする。 昨年度までの成果として、マウス脊髄スライス標本を用い、内因性活性酸素の一つである過酸化水素が脊髄後角膠様質(SG)細胞のGABA受容体介在性微小後シナプス電流の頻度を増加させることを明らかにした。また、過酸化水素による後シナプス電流の頻度増加のメカニズムを検討するために、薬理学的検討を行った結果、シナプス前細胞の小胞体におけるカルシウム放出に関与するIP3受容体のブロッカー、2APBが、過酸化水素の効果を抑制することを明らかにした。 IP3受容体はこれまでにタイプ1-3までのサブタイプが同定されている。そこで今年度は、脊髄でのIP3受容体のサブタイプについて免疫組織学手法を用い検討したところ、脊髄後角でタイプ1IP3受容体の存在を確認した。さらにタイプ1IP3受容体の遺伝子を部分欠損する遺伝子操作マウスOptマウスのヘテロタイプより作製した脊髄スライスを用い、過酸化水素がSG細胞のシナプス電流に与える影響を電気生理学的に検討した。その結果、ワイルドタイプマウスと異なり、過酸化水素による後シナプス電流の頻度増加は消失することが明らかになった。つまり、過酸化水素による頻度増加のメカニズムはタイプ1IP3受容体を介することが明らかになった。 本研究により、活性酸素の一つである過酸化水素が、タイプ1IP3受容体を介して、脊髄後角SG細胞におけるシナプス伝達を変化させることが明らかになった。つまり、IP3受容体は神経因性疼痛メカニズムに重要な役割を果たしていることが示唆された。このことは、新しい神経因性疼痛の治療薬の開発に役立つ可能性を示唆する。
|