脊髄くも膜下麻酔に用いる高比重液と等比重液では、作用発現に違いがあることが報告されている。その比重の調節にはグルコースが用いられている。そこで水棲カタツムリの神経細胞を用いて、脊髄くも膜下麻酔に用いるグルコースの局所麻酔増強作用と細胞内pHの関係を研究した。作用発現の違いの機序を明らかにするため、グルコースの添加が細胞内pHとNa電流に及ぼす影響を調べた。[方法]水棲カタツムリ(Lymnaea Stagnalis)の中枢神経培養細胞を用いた。細胞内pHはpH感受性蛍光指示薬BCECF-AMを用いて5分間記録した。結果はpH変化(ΔpH=測定時pH-灌流開始時pH)で示した。Na電流はパッチクランプ法で測定した。リドカイン灌流前のNa電流を100%とし、灌流2分後の変化率を求めた。生食に1mMのリドカインを加えたものをリドカイン単独群とし、1mMのリドカインに0.2、1、3%のグルコースを加えた群と比較した。[結果]細胞内pHはグルコース濃度依存性に低下し、2分後の細胞内ΔpHはリドカイン単独群に比べ3%グルコース群が有意に低かった(リドカイン単独群 ; 1.14±0.57、0.2% ; 0.31±0.42、1% ; 0.24±0.57、3% ;-0.66±0.56、P<0.05)。またNa電流もグルコース濃度依存性に抑制され、リドカイン単独群と他の群間で有意差がみられた(リドカイン単独群 ; 82.4±17.7%、0.2% ; 52.8±15.5%、1% ; 38.2±12.2%、3% ; 32.3±4.8%、P<0.05)。[考察]高比重液では、グルコースが細胞内pHを低下させることで麻酔作用を増強していると考えられた。
|