近年、蘇生に成功した心肺停止患者の予後については、単に心拍の再開だけでなく、脳機能の維持や完全社会復帰が求められるようになってきている。蘇生後脳症は強い脳浮腫を伴い、神経学的予後を悪化させる可能性があり、その予防や治療はたいへん重要である。AHA G2005によれば、心肺蘇生時のアシデミアは許容することとなっているが、網に対する影響は明確ではない。アシデミアの存在はフリーラジカル産生を亢進したり、DNA障害を惹起したり、細胞内情報伝達を妨げるなど様々な障害を発生する可能性がある。また、乳酸アシドーシスにより神経細胞やグリア細胞のアストロサイト(Ast)が細胞死を来すことが知られている。さらに、乳酸アシドーシスにより細胞膜上のNa/H^+対向輸送体を介して細胞内にNa^+が蓄積し、その結果としてAstの膨化、すなわち脳浮腫を生じることが知られている。一方、水チャネルであるアクアポリン4(AQP4)が脳浮腫の進行に関与することがわかってきている。本研究では、AQP4が脳浮腫の発生に重要な役割を果たしているという立場から、乳酸アシドーシスがAQP4機能に与える影響を明らかにすることにより、アシデミアが脳浮腫に及ぼす影響や蘇生後の脳におけるアシデミアの許容範囲を明確にし、より良い蘇生後の中枢神経管理方法を見出すことを目標とした。iRNA技術による細胞内AQP4発現抑制系(AQP4ノックダウン細胞)を確立し、アシデミアによる細胞容積の変化を検討したが、現時点では明確な結果を得ることができていない。また、心室細動誘発による心肺停止モデルはほぼ安定した結果を得ることができており、今後当該モデルにおけるAQP4の機能を検討していく予定である。
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