研究概要 |
【具体的内容】1, 順天堂大学附属練馬病院の倫理委員会に本研究内容についての承認を取得後、マイクロサンプリング(BMS : bronchoscopic microsampling)プローベ^<TM>(BC-402C, オリンパス社, 東京)を購入し、全身麻酔施行前後の気道上皮被覆液(Epithelial Lining Fluid, 以下ELF)の採取を行った。2, 様々な症例よりELFを採取し、炎症メディエータとしてインターロイキン(以下IL)-6を、また好中球などの走化性(chemotaxis)に影響すると考えられるケモカインとしてIL-8を測定し解析したところ、手術侵襲の大きな開腹術においては術後ELF中のIL-6・IL-8の上昇が著しいことが判明した。そのため手術侵襲を受けにくい症例を考慮し、開胸・開腹を伴わない体表の手術が、術後のELF中のIL濃度への影響が少ないと判断し、体表への手術のみを対象として新たに検体を取り直すこととした。このため平成19年度の検体採取の予定に遅れが生じ、平成20年度への科学研究費の繰り越し申請を行った。3, 平成20年度に、予定数の検体採取を終え、術前後のELF中のIL-6、IL-8濃度測定を施行した。結果としてセボフルランに亜酸化窒素を併用投与すると、セボフルランのみ投与した場合と比較し、術後ELF中のIL-8濃度が有意に上昇することが認められた。またすべての検体でIL-6は測定感度以下であった。以上の結果を受け、論文「亜酸化窒素による肺局所炎症反応悪化の可能性について」を医学雑誌「麻酔」に投稿した。【意義・重要性】亜酸化窒素は、二酸化炭素の310倍の温室効果ガスであり、京都議定書でも排出規制がかけられたガスである。今回全身麻酔施行時に、セボフルランに亜酸化窒素を併用投与することで、全身麻酔施行後のELF中のIL-8濃度が有意に上昇することが認められ、気道局所に炎症を惹起する可能性があることが確認できた。しかしELF中のIL-6は測定感度以下であったことから、直ちに気管支炎や肺炎などを引き起こすとは断定できないが、少なくとも気道や肺に炎症を起こしている患者においては、亜酸化窒素の投与は安易に行わない方がよいと考えられる。以上のことから今後亜酸化窒素の使用量が減少する可能性があり、環境問題にも影響を与え得ると考えられる。
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