研究概要 |
【具体的内容】1, 前年度に、セボフルランに亜酸化窒素を併用投与することで、セボフルランのみ投与した場合と比較し、術後の気道上皮被覆液(Epithelial Lining Fluid, 以下ELF)中のインターロイキン(以下IL)-8濃度が有意に上昇することが確認された。本年度はまずIL-8に代表されるケモカイン(Chemokine)をさらに詳細に分析するため、IP-10、RANTES、MCP-1、MIGについて、前年度に得られた検体を用いて測定を施行したが、手術前後のELF中に有意差のある濃度変化を見出すことは出来なかった。2, 次に順天堂大学附属練馬病院の倫理委員会において承認を取得後、さらにマイクロサンプリング(BMS : bronchoscopic microsampling)プローベ^<TM>(BC-402C, オリンパス社, 東京)を購入し、静脈麻酔薬のプロポフォールを用いた全身麻酔施行時に、亜酸化窒素を併用投与した群としなかった群より手術前後のELF採取を施行した。結果、手術前後で両群ともほぼ同程度の上昇傾向を認めたが、有意差はなかった。またすべての検体でIL-6は測定感度以下であった。以上の結果を、第56回日本麻酔科学会学術集会に、「亜酸化窒素による肺局所炎症反応悪化の可能性について-セボフルラン麻酔とTIVAを比較して-」と題して報告予定である。(2009-05-23(予定))【意義・重要性】全身麻酔施行時に、気管挿管し陽圧換気で呼吸管理することが炎症反応のトリガーとなることが報告されており、今回静脈麻酔施行後に、ELF中のIL-8濃度が上昇傾向を示すのも、このことを裏付けている可能性がある。一方でセボフルランのみでは術後ELF中のIL-8濃度上昇が抑えられておりIL-8産生抑制作用がある可能性が示唆された。しかしセボフルランに亜酸化窒素を併用投与することで、そのIL-8産生抑制作用は打ち消され、逆に気道局所に炎症を惹起する可能性があることが認められた。すべての検体でELF中のIL-6が測定感度以下であったことから、吸入後直ちに気管支炎などを引き起こす可能性はなかった。以上のことからセボフルランによる全身麻酔が、術後最もELF中のIL-8上昇が少なく、炎症性呼吸器疾患の患者では亜酸化窒素を併用投与しないセボフルラン麻酔を施行することで術後の呼吸器合併症の程度を軽減できる可能性が示唆された。
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