ヒト精子におけるSgによる膜ラフト構造への影響を明らかにするために、当初、精子の洗浄法としてPercoll密度勾配遠心法を予定していたが、Sgの精子運動超活性化への影響を検討するにあたり洗浄方の影響が懸念されたためまず、Percoli法とswim-up法の比較を行った。その結果、Percoll洗浄とswim-up処理が精子の運動に及ぼす影響について明らかな差があり、swim-up処理は精子の運動性を超活性化状態により近づけていることが示された。さらに、Sgは高濃度でいずれの処理の場合も精子運動を完全に抑制するが、低濃度ではswim-up処理における直進性、平均運動半径の抑制を解除、すなわち超活性化状態に至る経路をより強く抑制していることが示された。従って、in vivoに於ける精子運動超活性化についてもPSAにより低分子化し、低濃度となったSgがその調節の重要な役割を担っていると考えられ、Sgは精子運動の生理的な超活性化抑制因子でもあることが示唆された。また、膜ラフトへの影響に関してはマウスでの相同タンパク質SVS2とガングリオシドGMIの結合が明らかになったのでヒト精子についても同様な方法で精子全膜脂質の抽出が可能であるかどうか検討を行い、同様に抽出されることを確認した。Sg結合タンパク質については免疫沈降法での検討を行い、一般的な膜タンパク質可溶化バッファーであるRIPAbufferにて抽出した膜タンパク質中にSg特異的に結合するタンパク質をいくつか見いだすことができた。これらの結果より、今後はSgの精子膜上での受容機構の候補として、糖脂質とタンパク質の両方を検討する予定である。
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