乳癌はエストロゲン依存性に発生・進展する腫瘍である。そのためエストロゲン受容体(ER)発現の有無は乳癌の治療選択にとって極めて重要な指標となっている。しかし、これまで原発性乳癌細胞のER活性を測った報告はない。また昨年度、我々の行ったマイクロアレイを用いたエストロゲン応答遺伝子発現解析は、原発性乳癌組織においてERが強発現していても応答遺伝子の発現が低い症例があることを示した。そこで我々は個々の原発性乳癌細胞のERの転写活性を定量化し、臨床病理学的因子との関連を解析することを目的とした。初代培養原発性乳癌細胞のER転写活性を測るため、我々はエストロゲン応答配列(ERE)にレポーター遺伝子として蛍光タンパク質GFPをつないだERE-GFPをアデノウイルスに導入したAd-ERE-GFPという独自の系を用いた。62症例の原発性乳癌手術検体をコラゲナーゼ処理後、Ad-ERE-GFPを接種し、48時間後GFP発現細胞率を指標としたレポーター解析を行った。尚、この時用いた検体は埼玉県立がんセンターの倫理委員会で承認を得たものである。GFP陽性細胞率すなわちER転写活性は各患者間において様々であった。62症例の結果を基に臨床病理学的因子との関連をノンパラメトリック検定にて解析した。ER転写活性は閉経前後とEREの下流遺伝子であるPgRの有無において有意な関連を認めた。さらにER陽性47症例のみの解析では、ER転写活性はPgRと相関、年齢と逆相関した。また、乳がん予後因子の1つであるHer2がER転写活性に対して2相性の機能を有する可能性を示した。GFP陽性細胞率を中央値で2分した時、Her2は高陽性細胞率群において正相関を示し、低陽性細胞率群において逆相関を示した。これらの結果はERとリン酸化カスケードとの関係、牽いてはホルモン療法と分子標的治療との関係に示唆を与えるものである。
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