【目的】母体血漿中に流入する新たな胎盤由来mRNAを同定し、cell-free placental mRNA(cfp-mRNA)の臨床的意義、とくに胎盤機能を推察するマーカーとしての可能性を明らかにすることを本研究の目的とする。そこで、平成20年度は、前年度に同定した胎盤特異的遺伝子50個をターゲットにしたcDNAマイクロアレイパネルを作成し、胎盤に病態のひとつが存在する妊娠高血圧症候群(PIH)におけるcfp-mRNA流入パターンと臨床所見との関連について検討した。 【方法】本研究は本学倫理委員会の承認を得て行われた。まず、胎盤組織で強度に発現しているが母体白血球では発現を認めない胎盤特異的遺伝子を同定してcDNAマイクロアレイパネルを作成した。ついで、妊娠28週から35週にPIHと診断された12例を対象とし、日本産科婦人科学会の定義に従って病型分類した。妊娠合併症を認めない同じ妊娠週数の妊婦をコントロールとした。PIHおよびコントロールから抽出したcfp-mRNAをそれぞれ等量ずつ蛍光標識し、胎盤特異的cDNAパネルを用いてcomparative cDNA hybridization解析を行った。そして、コントロールと比較して複数の遺伝子でcfp-mRNA流入量に2倍以上の変化を認めるものをパターンA、認めないものをパターンBとした。 【成績】胎盤特異的cDNAマイクロアレイパネルを用いた解析で、PIH 12例のうちcfp-mRNA流入量の変化がパターンAを示したものは5例、パターンBを呈したものは7例であった。高血圧の病型については、パターンAの5例はいずれも重症、パターンBの7例はいずれも軽症であり、cfp-mRNA流入量の変化と有意な関連が認められた(Fisher直接法、P値=0.018)。 【結論】胎盤特異的cDNAマイクロアレイパネルを用いて母体血漿中cfp-mRNA流入量の全体的な変化を把握することで、高血圧が重症型のPIHと関連する流入パターンが同定された。本法は、PIHにおける胎盤機能検査や病態解明に有用と思われた。
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