胎児由来の胎盤トロホブラストは、妊娠初期からHLA-GおよびHLA-Eを強く発現し、脱落膜に多く存在するNK細胞活性を調節することにより、妊娠維持に機能している。近年、このHLA-Gが着床前の受精卵、特に体外受精卵培養上清においても発現し、着床に深く関与しているとの報告があり、不妊治療分野において、脚光を浴びている。我々はこの真偽を確かめるべく、体外受精卵培養上清中のHLA-G抗原の有無について検討を行った。昨年度までに、day3培養上清84例、day6培養上清25例中にHLA-G抗原が検出されなかったことを報告したが、あらたに培養上清を採集し、さらに高感度なELISA法を用いて再検討した。 その結果、抗HLA-G抗体を用いたELISA(検出限界 : 2ng/ml)において、day1培養上清37例、day3培養上清88例、day6培養上清49例中に、HLA-Gは検出されなかった。さらに抗HLAクラス1抗体を用いたELISA(検出限界 : 0.5ng/ml)においてもday3培養上清110例、day6培養上清88例中にHLA-Gを含むHLAクラスI抗原は検出されなかった。 現在、世界中において、体外受精の必要性が高まり、その患者数も増加しつつある一方、体外受精の成功率はいまだ100%には程遠い。そこで、画期的な体外受精卵の良好胚選定法が求められ、体外受精卵培養上清中のHLA-G測定が脚光を浴びた。しかし、これまで提出された多くのデータはいずれも測定方法が不明瞭で、検出されたHLA-G抗原量も一致しない。我々の結果は、体外受精卵培養上清中のHLA-G測定は良好胚選定法に不適であることを示唆した。本研究は、今後、真に有用な体外受精卵良好胚選定法の開発に際して、非常に意義のある研究である。
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