研究概要 |
【目的】glycodelin(Gd)は正常子宮内膜においてimplantation windowに一致して発現が誘導され,着床不全症例の一部にGdの発現低下が報告されている.一方,子宮内膜腺癌では,Gdの発現量と正の相関をもって予後が良好であることが知られている.近年,子宮内膜腺上皮に対するGdの分化誘導能が報告された.本研究では,Gd発現の増殖に与える影響について検討した. 【方法】ヒト子宮内膜腺癌細胞株Ishikawaに蛍光蛋白EGFPを発現させた対照群(C群)とEGFP標識Gd発現群(Gd群)を用いて細胞増殖曲線作成,さらにはEGFPを指標に導入細胞をフローサイトメトリー(FCS)で分取した2群に関して,生細胞数を定量的に測定し得るMTS法にて増殖速度を比較検討した.さらに,細胞周期および細胞周期関連因子のmRNA発現を,それぞれFCSおよびRT-PCR法を用いて解析した. 【成績】Gd群では,細胞増殖曲線, MTS法ともに細胞増殖の有意な遅延を認めた.またGd群ではp16, p21,及びp27といった細胞周期回転抑制因子のmRNA発現が顕著に増加し, FCSで明らかなG0/G1 arrestを示した. 【結論】Gdの発現により,子宮内膜腺上皮細胞の増殖が抑制されること,その主な作用点は細胞周期上G1/S移行期であることを明らかにした.これは,implantation windowで誘導されるGdが,内膜腺上皮の増殖制御を通じて,着床のプロセスに関与する可能性を示唆する.また,Gdの細胞増殖抑制能は,内膜腺癌におけるGd発現量と予後が正に相関する報告を支持しており,Gdを標的にした内膜腺癌に対する分子療法の可能性が示唆された.
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