我々は、ヒト胎盤絨毛の構造が、成書の記載(定説)とは異なり、正期胎盤においてもラングハンス細胞層は断裂せず、層構造が維持されていることをはじめて明らかにしてきている。今回の研究により、胎盤ラングハンス細胞の特異的なマーカーであるSPINT1(肝細胞増殖因子(HGF)に関連する、セリンプロテアーゼインヒビターであるHGF activator inhibitor 1型)機能、SPINT1が特異的に発現しているラングハンス細胞層の新しい機能を解明するために、1)ヒト由来ラングハンス細胞の培養細胞系(初代培養、細胞株)において、RNA干渉技術(RNAi)でラングハンス細胞におけるSPINT1mRNAをノックダウンすることにより、ラングハンス細胞の形態変化(特に接着装置の動態)と、SPINTl関連因子の発現変動を解析、さらに、2)異常妊娠の胎盤絨毛におけるSPINT1とその関連因子について、組織化学的解析と生化学的解析を行うことを目的として、研究を開始した。 SPINTlに対するGFP融合shRNA(shSPINT1)を作成し、絨毛栄養膜細胞株を用いて、ベクターの抑制効果の検証を進めている。また、正常胎盤と妊娠高血圧症候群(異常妊娠)のSPINT1、および、それに関連する分子による胎盤絨毛組織の分子構築を、光顕レベルで電子顕微鏡の解像力に迫る、独自に開発した超高分解能蛍光顕微鏡法を軸に解析を行った。サイトケラチン7の免疫染色から、正常胎盤絨毛組織と比較して、妊娠高血圧症候群の胎盤絨毛組織では、絨毛栄養膜のサイトケラチンの分布に異常を示す所見を得た。さらに、現在、詳細な分子構築の解析を画像解析ソフトを用いて進めている。
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