本研究は、胎盤ラングハンス細胞の特異的なマーカーであるSPINT1の胎盤絨毛栄養膜における機能を解明することを目的に、RNA干渉技術(RNAi)でSPINT1mRNAをノックダウンすることにより、ラングハンス細胞における、接着分子とSPINT1関連因子(HGF受容体(MET)等)の発現変動を解析した。In vitroのモデル系としてBeWo細胞等にて、SPINT1が発現していることを免疫組織化学およびreal-time PCRにて検証した。次に、BeWo細胞を用いて、作製した3つのsiRNA(siSPINT1)抑制効果の検証を行い、mRNAレベル、蛋白質レベル、および免疫組織化学レベルにおいて、十分なSPINT1抑制効果を持つことを明らかにした。ノックダウンBeWo細胞において、E-cadherin(CDH1)には著明な変化が観察されなかったが、matriptase(ST14)の発現低下と、METの発現増強を認めた。妊娠高血圧症候群において、胎盤の酸素濃度が低下し、栄養膜からのfms-related tyrosine kinase 1等の放出、胎盤機能不全が引き起こされる。そこで、in vitroのモデルとして低酸素状態で培養したBeWoにおけるSPINT1解析をさらに進めた。興味深いことに、低酸素環境では、SPINT1の発現低下とともに、CDH1およびST14の発現低下が観察された。これは、正常の胎盤環境とは異なり、病的環境において、SPINT1、spiINT1関連分子、および接着分子の動態が大きく変動し、胎盤絨毛組織の病的構造変化に関与する可能性を示唆する所見である考えられる。今回、siRNAによるin vitro栄養膜SPINT1解析モデルの確立に成功した。共焦点顕微鏡および免疫電子顕微鏡による詳細な形態学的解析及び網羅的なシグナル伝達系の生化学的解析が課題として残された。成果は投稿準備中である。
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