今回の研究は、嗅神経切断後に篩板を自家筋膜片に置換すると、再生嗅神経の嗅球到達、嗅球ニューロンとのシナプス形成がより効率的に成され、嗅覚回復に寄与することを、哺乳動物を用いて実験的に検証する目的で施行した。瘢痕化した篩板を自家筋膜片で置換することにより、嗅神経-嗅球の神経路が再生するのを組織学的、生化学的に検証し、さらにこの置換による再生促進に寄与する因子を探索する。また電気生理学的、実験行動学的検証により、この瘢痕化した篩板の置換がより効果的に嗅覚機能の回復を招来することを明らかにする。 実験用マウスをペントバルビタールで麻酔し、マウスの前頭骨と鼻骨を削開して嗅球と鼻内の嗅粘膜を明視下におく。テフロンで作製した柔軟な神経切断カッターを左側の篩板と嗅球の間に挿入して嗅神経を切断する。右側は切断せず、コントロールとする。開いた鼻骨の穴を介して、嗅粘膜にHRP(Horseradish peroxidase)またはビオサイチンを注入して順行性軸索輸送により神経終末を標識する。次に篩板を切除し、その欠損部に同一個体から採取した側頭筋膜片を挿入し、閉頭した。術後5日目、14日目、42日目、70日目でマウスを生理食塩水とホルマリンで環流固定し、頭蓋を摘出し、脱灰処理した後、スライス切片標本を作製し、再生した嗅神経の嗅球到達を組織学的に検証する。移植筋膜片及び嗅球の嗅神経再生における組織学的変化をTrichrome染色、抗GFAP(Glial fibriary acidicprotein)抗体蛍光免疫染色、抗CD68抗体蛍光免疫染色により解析する。後者の解析により、嗅神経の再生の成否に関連する周囲組織の生物学的環境を明白にする。 本年度は上記の実験システムを確立した。嗅神経切断後に期間を置いた例では嗅神経の再生が不良であることがわかった。引き続き次年度に研究計画を続行する予定である。
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