中耳真珠腫や癒着性中耳炎などの中耳疾患においては、術後に中耳腔及び乳突腔の正常粘膜を保存することが困難な症例も多く、良好なガス換気が失われ、術後鼓膜の再癒着や中耳真珠腫の再発が起こりやすい。このような症例に対して術後の露出した骨面上に早期に粘膜を再生させることが癒着や再発の予防になると考えられ、培養細胞シートの開発及びシート移植が可能となれば中耳粘膜の再生が促進され、これまでコントロールすることが困難であった肉芽増生や骨増生が抑制されることが期待できる。家兎を用いた動物実験では、動物実験委員会の承認のもと温度応答性培養皿を用いて家兎の鼻粘膜上皮細胞シートを作製し、同一家兎の中耳骨胞へ移植を行った。対象を粘膜除去のみ行い、細胞シートの移植を行わない粘膜単独除去群とし、約8週間後に機能的検討として中耳腔全圧最大値を測定し、さらにCTでの骨増生の評価と粘膜再生に関して組織学的検討を加えた。粘膜除去群に比しシート移植群においてはCTおよび組織学上、骨増生が抑えられ、また中耳腔全圧最大値も高値であり、ガス換気能も良好と考えられた。動物実験では良好な結果が得られ、今後の臨床応用に向け我々は倫理委員会の承認及び本人の同意を得たうえで、ヒト下甲介粘膜を術中に採取し、温度応答性培養皿を用いた鼻粘膜上皮細胞シートを作製した。ヒト下甲介粘膜を術中に採取し、同様に細胞シートの作製を行った。H-E染色ではほぼ単層の上皮様構造が認められ、走査型電子顕微鏡(SEM)では微揉毛はほとんど観察できなかったが、多角型の細胞配列を認め、透過型電子顕微鏡(TEM)ではtight junction、desmosomeなどが認められ、細胞間接着の存在を確認した。
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