本研究は、嚥下の口腔期から咽頭期への連続性とその制御機構につき明らかにすることを目的として開始した。これらは、嚥下障害に対する治療法は、口腔期に対するもの、咽頭期に対するものとで別々に行われており、実際、食塊の口腔から咽頭への移送がうまくいかない患者では、治療に大いに難渋する。そこで、嚥下の口腔期から咽頭期への移送の連続性と、それを円滑に行うための機構の存在を明らかにすれば、嚥下運動全体を視野に入れた有効な嚥下訓練方法を行える可能性があると考えた。 本年度は口腔期嚥下器官である舌と下顎の運動性と、咽頭期嚥下器官である咽頭と喉頭の運動性の関係について明らかにすることを目的として研究を行った。具体的にはhooked wired electrodeの手法による多チャンネルの筋電図、嚥下圧を同時記録し、その時間的関係、筋出力の量的関係について分析を行った。筋電図は、顎二腹筋前腹、咽頭収縮筋、オトガイ舌筋に刺入した。嚥下圧計は舌根部、食道入口部を計測した。研究は、一側の鼻腔に嚥下圧計を、もう片側の鼻腔にアトム管をつけた喉頭内視鏡を挿入し、空嚥下時と1mlの水を注入したときの嚥下時の記録を行った。更にこれらの記録を、立位、45度傾斜位、仰臥位でも行い、どのように修飾、変化を受けるかについて検討した。 この検討を3名の正常ボランティアで行った。その結果、各筋の筋活動の時間的関係は変化しないが、体位や頭位、嚥下物の量や物性により、筋活動の量的関係が変化し得ることが明らかになった。また、各筋群の筋活動の関係については、オトガイ舌筋は嚥下時の喉頭挙上を演ずるleading complexの主体である顎二腹筋より早く活動を始めること、また、オトガイ舌筋は空嚥下よりも1ml嚥下で筋放電時間が延長することが判明した。次年度は、例数を増やすと共に、食道入口部括約機構の主体である輪状咽頭筋や咀嚼筋の筋活動も視野に入れ、更に研究を深めていく予定である。
|