研究概要 |
喉頭の局所生体防御能は、粘膜免疫の中心的役割を担う腺組織(喉頭腺)で産生される分泌液が中心であることを明らかにしてきた。音声言語機能上も重要な上気道分泌液が高齢者で減少することは予想されてきたが、喉頭分泌液の供給源である喉頭腺が、年齢や環境刺激によって機能的に、或いは形態的に変化する病態は明らかでない。本研究では喉頭組織を対象に、声門上と声門下レベルでの喉頭腺分布を計測・比較検討した。喉頭腺の分布は画像解析装置(WIN ROOF)を用いて、喉頭の段階的連続切片面の粘膜あたりの喉頭腺占有率、漿液腺・粘液腺の構成比を算定した。成人111名(男性100名、女性11名 ; 年齢43歳〜90歳)の摘出喉頭における声門下レベルでの粘膜内喉頭腺占有率(腺密度)は0.20で、喉頭内腔や粘膜面積は小児の5〜9倍であるにもかかわらず、粘膜あたりの腺組織の占有比率は小児と成人ではほぼ同一であった。一方、画像解析2値化法による喉頭腺腺房内の実質腺部分の測定では、平均値が声門上部0,52、声門下部0.68で、声門上部が声門下部より低下していた。年齢との関連では高齢者ほど声門上部の腺房内実質腺が減少し、脂肪変性などの腺組織委縮が認められた。腺組織内の構成の比較では、粘液腺の占める比率の平均値が声門上部0.40、声門下部0,37で、声門上部の方がやり粘液腺優位であった。年齢と粘液腺占有率との関連では声門上部r(相関係数)=0.32、声門下部r=0,04で、高齢者ほど声門上部粘液腺が多くなる傾向をみとめた。喉頭腺微細構造の変化を観察した結果、粗面小胞体、ゴルジ装置などの細胞内小器官が減少し、特に漿液腺内の濃縮液砲、分泌顆粒の前駆体や分泌顆粒の電子密度が低いことが特徴であった。これらの観察結果から、高齢者喉頭では分泌液産生量が減少し、分泌液内蛋白質の減少や分泌液成分の変化をもたらしていることが示唆された。
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