研究概要 |
種々の感染症に対する経鼻免疫ワクチンの開発や効果予測、免疫寛容の破綻ともとらえ得る鼻アレルギー(花粉症)の発症機序の解明において、その根底ともいえる鼻粘膜の免疫学的特性についての知見は不足している。種々の抗原を経鼻投与して防御的な免疫応答が誘導されたという報告が数多くある一方、免疫寛容が誘導されたという報告もあり、統一された見解はまだない。 本研究では、鼻粘膜とは如何なる特質をもつ免疫器官であるかを明らかにすることを目的とし、野生型マウスに非病原性抗原としてOVAを点鼻して誘導される免疫応答について解析した。生食水に溶解させたOVAを、doseを振って(1〜1,000μg)、BALB/cマウスに隔日2週間点鼻したところ、点鼻開始後3週目に10μg以上を点鼻した群の血清中のOVA特的なIgG抗体価に上昇がみられ、4週目にピークに達した。サブクラス解析の結果、その主体はIgG1で、抗体価の上昇にはdose dependencyが見られた。特異的IgAは1,000μg点鼻群でのみ少量見られたが、コレラ毒素をアジュバントとした陽性対照群に比べて極めて少なく、従って、抗原単独での経鼻投与では効率的な粘膜型の免疫応答は誘導しにくいと考えられた。特異的IgEは検出されなかった。 一方、この系においても抗体産生と同時に免疫寛容が誘導されている可能性があったため、抗原の点鼻与後にOVAをCFAあるいはA1um Gelと混合して投与し、二次応答の誘導を検討した。その結果、CFA、 Alum Gelいずれのアジュバントでも、対照群(生食水を点鼻)に比較して有意に高い特異的IgGl産生を示し、一方、T細胞の抗原特異的増殖反応の抑制は認められなかったことから、消化管のような免疫寛容は誘導されないことが明らかとなった、今後、このような粘膜器官ごとの免疫学的な特質の違いの原因を検討する必要がある。
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