緑内障は中途失明疾患の第一位であり、失明予防の観点からその治療法の確立は重要である。現状では眼圧下降がもっとも重要な治療法であるが、臨床的には眼圧を目標値まで充分に低下させることができない症例も多く、眼圧低下治療以外の新規の神経保護治療の確立が必要である。TNFαは炎症を惹起する炎症性サイトカインで、その受容体TNFR1またはTNFR2を介し、カスパーゼ8の活性化を誘導し、細胞死を誘導する分子と知られている。また、多くの慢性中枢神経変性疾患のモデル動物において、その細胞障害性が報告されている。網膜においてもグリア細胞であるアストロ細胞やマクログリア、骨髄由来のマクロファージからTNFαが分泌されることが知られており、緑内障患者の視神経や網膜においてTNFαやその受容体の発現が上昇している。培養網膜神経節細胞においては、TNFαは細胞障害性を有している。これらの結果は緑内障において、TNFαが何かしら病態に関わり、緑内障の網膜神経節細胞死に直接的に関係していることを強く疑わせる。そのような背景から、本研究ではマウス高眼圧モデルを作製し、TNFαの発現変化が見られるかを同定し、TNFαに関係するノックアウトマウス(KO)を用い、TNFαの抑制が治療的効果を有するのかを調べることを目的とした。TNFαKO、またその受容体である、TNFR1KOおよびTNFR2KOに高眼圧負荷をかけ、網膜神経節細胞死の程度を野生型マウスと比較したところ、TNFαKOおよびTNFR2KOでは高眼圧による神経細胞死が有意に抑制された。また、野生型マウスに高眼圧負荷をかけ、視神経にTNFαの中和抗体を持続投与したところ、高眼圧負荷による眼組織への破壊的影響が有意に抑制された。高眼圧障害により視神経のマイクログリアが活性化していることから、マイクログリアを特異的に抑制するCD11bKOに高眼圧を誘導したところ、マイクログリアの抑制も、その組織障害を抑制した。こうして、TNFαの抑制およびマイクログリアの抑制は緑内障の新規神経保護治療の候補として重要である可能性が示唆された。
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