青錐体一色型色覚の日本人2家系の赤緑オプシン遺伝子の欠失範囲の正確な同定のために、ゲノム構造解析を行った。家系1の患者については、昨年度までに、赤オプシン遺伝子の開始コドンの上流からイントロン2にかけて、LCR(Locus Control Region)を含む約16kbの領域を欠失していることを1塩基レベルで決定した。これには、同領域が欠失したアレルのみが断点を含んだ断片として増幅されるように設計したPCRプライマーを利用した。家系2の患者は、赤オプシン遺伝子の開始コドンの上流約28kbから下流約12kb(イントロン4)にかけて、やはりLCRを含んだ約40kbの領域が欠失していたが、家系1の場合と同様に設計したプライマーを用いたPCRでは増幅が得られなかった。このことから、家系2の患者では欠失に伴って他のDNA断片(断片Uとする)の挿入が同時に起き、その断片がかなり長いなどの理由でPCRで増幅が可能でないことが推察された。そこで、この断片Uの両端塩基配列を調べることにした。患者DNAを種々の制限酵素で消化し、消化産物の両端にGenome Walker (Clontech)のアダプターを連結した。欠失の切断点近傍配列とアダプター配列の両プライマーを用いてPCR増幅したところ、各制限酵素で特異的な長さのDNA断片が得られた。現在、これらの断片の塩基配列を決定しており、その情報から欠失の切断点をほどなく明らかにする予定である。さらに、断片Uの由来と長さも解明され、この家系での欠失および挿入の発生機構も解明できることが期待できる。これら両家系の欠失領域の1塩基レベルでの情報は、赤緑オプシン両遺伝子の排他的発現調節機構のみならず、7番染色体上の青オプシン遺伝子との択一発現の分子機構の解析にも有益なものと考えられる。
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