本年度は、実際にアンジオテンシンII受容体ノックアウトマウスを用いて、硝子体内にNMDAを注入する方法を用いた網膜神経節細胞アポトーシスモデルの実験を行った。実験に用いたマウスは、Atla受容体ノックアウトマウス(AT1aKO)、AT2受容体ノックアウトマウス(AT2KO)であり、対象である野生型(C57BL/6J)マウスとの差異について検討した。検討項目は、網膜神経節細胞のアポトーシスを反映するものとして、網膜鋸状縁から視神経乳頭部分の中央部網膜における単位面積あたりの網膜神経節細胞数、および内網状層(IPL)厚とした。網膜神経節細胞数、内網状層厚は、投与前、投与1日後、投与7日後のすべての測定ポイントにおいて、AT1aKO、AT2KO、および野生型マウスとの間に統計学的有意差を見いだすことはできなかった。 アンジオテンシンII受容体ノックアウトマウスにおいて差異が認められなかった原因について 今回我々が用いたNMDAの硝子体腔内注入によるアポトーシスモデルは、網膜虚血再潅流モデルなど、他と比較して、網膜神経節細胞に与えるダメージが比較的大きく、投与後に惹起される炎症反応も強力でることが指摘されており、本モデルを用いることの妥当性についての検討が必要と思われた。緑内障における網膜神経節細胞はアポトーシスによることは明らかにされているが、本来慢性進行性である本疾患における細胞死を動物モデルにより再現することは極めて困難である。しかし最近、NF-kBのサブユニットの1つであるp50ノックアウトマウスが月例依存的に網膜神経細胞死をきたし、正常眼圧緑内障モデルとしての特性を有することが明らかにされている。将来的にはこのようなモデルにアンジオテンシンII受容体作用薬を長期投与して、より病態に近い形の実験系を確立する必要性が感じられた。
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