糖尿病の三大合併症の一つである糖尿病網膜症は失明原因の第一位である。我々はこの糖尿病網膜症に対する新しい予防法および治療法を開発することを本研究の最終目的としている。 以前より血管透過性亢進サイトカインを標的とする様々な治療法が提案されてきたが、現在まで十分な有効性が確認されていない。従来のように糖尿病網膜症に対する治療標的を血管透過性亢進サイトカインに一元下するのではなく、血管透過性抑制サイトカインに求めることにより、眼内微小環境を血管透過性抑制系の優位へと導き、結果として糖尿病網膜症の治療法に新たな可能性を展開しようとする本研究は、他に類を見ず、糖尿病性網膜症の原因を一元的に血管透過性亢進サイトカインに求める従来の概念とは一線を画すものである。 これまでの研究により、血管内皮細胞とグリア細胞が生体機能ユニットを形成し、グリア細胞から分泌されるサイトカインがパラクライン的に作用し、血管内皮細胞のバリア機構を修飾し、毛細血管の透過性を調節している事実を世界で初めて実証した。さらに、レチノイン酸による血管透過性抑制サイトカイン(GDNF)および血管透過性亢進サイトカイン(VEGF)の調節機構が明らかとなってきた。動物実験においてもレチノイドによる糖尿病網膜症の予防および治療の可能性、有用性も確認することができた。つまり、レチノイン酸を用いることで、糖尿病網膜症に関わるサイトカインを制御し、眼内微小環境を血管透過性抑制系の優位へと導くことで、結果的に糖尿病網膜症における網膜血管病変を制御することに成功した。 糖尿病網膜症に対し、新しい予防法および治療法を開発する基盤を確立できたと思われる。
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