本研究ではhepatocyte growth factor (HGF)の発現遺伝子をウイルスベクターによって、遺伝性網膜変性ラット視細胞および網膜色素上皮に導入し、その効果と副作用を検討することを目的とする。平成19年度には下記の検討を行った。方法:1.段階希釈法で測定および判定し、ゲルバー法でレンチウイルスベクターの力価を求めた。2.レンチウイルスベクターの切断パターンテスト。レンチウイルスベクターのDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動を行った。このDNA切断パターンを初代ウイルスの切断パターンと比較した。3.外来遺伝子としてGFPを組み込んだレンチウイルスベクターをRCSラットの右眼の網膜下腔に注入した。左眼の網膜下腔にはレンチウイルスベクターのみを注入した。4.網膜組織標本を作製し、GFPの発現を光学顕徴鏡で確認した。5.HGFのcDNAを搭載したレンチウイルスベクターを3週齢のRCSラットの片眼の網膜下に注入した。結果:精製したレンチウイルスベクターに欠失ウイルスは生じていなかった。ラットの網膜へのウイルスベクター注入では、網膜色素上皮細胞においてGFPの発現を確認でき、レンチウイルスベクターを用いてラットの網膜色素上皮細胞に遺伝子導入が可能なことが判明した。現在の所、有意差は得られていないが、HGF遺伝子導入により、網膜外顆粒層の細胞核がコントロール群に比較して保たれている個体があり、組織学的な見地からはHGFは網膜変性細胞を保護する可能性があると思われた。今後の課題:遺伝子導入したRCSラットにおいて網膜電図を測定して、機能的に網膜変性ラットの網膜変性に対して網膜機能の保護効果あるかどうかについて検討を進める。また、今のところ遺伝子導入の際に、手技的の問題で白内障、網膜裂孔および硝子体出血が生じることがあり、手技的な安全性を高めていく。
|