研究概要 |
組織特異的糖尿病合併症の発症にレニン・アンジオテンシン系が関与していることは近年報告され始めているが、網膜症に関しては新生血管や網膜浮腫が生じる際の病態解析が主であり、実際に視機能を担っている網膜神経細胞に着目した報告は少ない。そこでわれわれはストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病モデルマウスにアンジオテンシンII1型受容体(ATIR)阻害剤(ATIR blocker, ARB)を投与することでアンジオテンシンII1型受容体抑制により糖尿病網膜における神経機能障害が抑制されること、糖尿病網膜症モデルにおいて、シナプス機能タンパクのひとつであるシナプトフィシンのタンパク発現がATIRシグナルの下流で転写後調節によって減少することを平成19年度に明らかにしたが、その分子メカニズムを解明すべく平成20年度では培養神経細胞を用いて以下の点を新規に明らかにした。 1. アンジオテンシンIIで培養神経細胞を刺激するとin vivo糖尿病網膜と同様にシナプトフィシンの発現がATIR下流で転写後調節により減少する。 2. アンジナテンシンII刺激によるシナプトフィシンの減少はERKの活性化を介してユビキチン・プロテアソーム系によって起こる。 以上の結果から、糖尿病網膜ではATIRシグナルの下流でシナプス関連タンパクが分解され、電気生理学的異常をきたすが、ARBの投与によりその病態を是正できることを明らかにし、Diabetes. 2008 ; 57 : 2191-2198に発表した。本研究は今後の糖尿病網膜症に対する早期介入を考える上でレニン・アンジオテンシン系の阻害が有用であることを初めて明らかにしたものであり、今後の臨床応用が期待できる重要な研究である。
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