まず、実験の基礎となるマスウにおける角膜移植を、野生型マスウを用いて行い、安定した角膜移植術の手技を習得した適切な手術操作と術後の抜糸を行い、またドナーとレシピエントに同腹のマウスを用いることで、特に免疫抑制を行うことなく、移植片が高率に生着し透明治癒することを確認した。 次にGFPマスウを用いて角膜移植実験を行い、keratocyteおよび三叉神経の再生を観察した。術後およそ3週で、移植片がレシピエント由来のGFP陽性角膜皮細胞に覆われた。この時期の角膜実質および角膜上皮の性質を調べるために、切片を筰裂し、cytokeratinのK12、K14、K15、K19、Ki67およびvimentinの特異的抗体を用いて免疫染色を行った。移植片接合部の実質ではvimentinが強発現しており、線維芽細胞が増殖しながら瘢痕治癒している様子が見られた。上皮においては、本来角膜輪部基底部で発現し角膜上皮幹細胞の間接的なマーカーになり得ると考えられる、K15、K19が発現していた。これは創傷治癒の過程で、接合部に上皮幹細胞が移動してきたか、あるいは接合部周囲の上皮幹細胞の性質を獲得しているようにも思われた。この結果を、ARVO annual meetingで発表した。 続いて5週後には、GFP陽性の神経線維とkeratocyte様の樹枝状細胞が移植片内に進入する様子が観察され、移植片内に出現したkeratocyte様の樹枝状細胞の多くは神経線維に伴っており、三叉神経が実質幹細胞のnicheに関与しているという仮説が具体性を持ったように思われた。最終的に術後9週までの観察を行ったが、この段階で移植片中央部まで神経線維は進展し、やはり神経線維に沿って樹枝状細胞が認められた。しかし生理的な神経線維の走行やkeratocyteの分布に比べ、未だ粗で単純であるため、この後さらに長期間経過を観察する必要があると思われた。
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