ヒトやサル、ネコの一次視覚野には、左右の目からの入力に対応する、眼球優位カラムが存在することが知られている。このカラム形成には、発達期の視覚体験が重要であることが考えられている。近年、この発達脳視覚野の眼球優位カラム形成に、脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与することが報告されている。われわれのこれまでの研究においては、BDNFを一次視覚野へ投与し、眼球内にトレーサーを入れてカラムの形態変化を調べた結果、カラムが拡大することを明らかにした。しかしながら、このときの視床から一次視覚野に投射する軸索の投射領域が拡大しているのかどうか明らかになっていない。われわれは、5週齢の仔ネコを用いて、一次視覚野にBDNFを2週間投与し、視床から視覚野に投射する軸索を可視化するために、BDAというトレーサーを外側膝状体(視床)に注入した。2週間後、麻酔下で灌流固定を行い、免疫組織化学法を用いて、BDNFの投与領域とBDAの投射領域を染色した。その結果、BDNF投与領域内の軸索は、非投与領域の軸索と比べて、長さが短くなり分岐点数も減少した。しかし、軸索の投射領域はBDNF内外で変化がなかった。このことは軸索の密度が低下していることを示している。カラムが拡大した結果と合わせて考えると、軸索の投射密度が低下することで、カラムが一様にラベルされるようになったとこを明らかにした。これらの実験は、両眼を開いた状態で行っているが、次に両眼を遮蔽した状態で、同様にBDNFを視覚野に投与し、軸索の形態がどのように変化していくかを調べることによって、視覚体験がない状態でのBDNFの効果が明らかにできると考えている。
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