ヒトやサル、ネコなどの一次視覚野には、左右の目からの入力に対応する眼球優位カラムがあることが知られている。このカラム形成に、発達期の視覚体験が重要である。ネコの発達期に片側の眼瞼縫合を行うと、閉眼側のカラムが縮小し、開眼側のカラムが拡大することが知られている。この変化に神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与することが知られている。また、私が関与したこれまでの研究において、発達期のネコの視覚野にBDNFを投与し、眼瞼縫合を行うと、閉眼側に対応するカラムも開眼側に対応するカラムも拡大することを明らかにした。しかしながら、この研究において視床の外側膝状体から一次視覚野に投射する線維が、伸長したのか退縮したのかは不明である。そこで、外側膝状体に投射する軸索を可視化するため、BDAというトレーサーを外側膝状体に注入して同様な実験を行った。その結果、軸索は退縮し、分岐点数も減少することを明らかにした。これまでの研究において、BDNFは抑制性ニューロンの作用を強めることが報告されているため、視覚野のニューロンの活動がBDNFにより低下するのに対して、視覚入力は正常であるため、大脳皮質4層で活動の同期が作れなくなる。そのため、軸索が退縮すると考えている。また、カラムが拡大したことと軸索が退縮したことの関係は、外側膝状体のニューロンは左右どちらかの眼に対応しておりその視覚野への投射は対応するカラム内に密に分布する。その分布密度が低下することで、一様にラベルされることが、カラムが拡大しているように見えると考えている。
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