本研究は毛周期を維持するダイナミックな血管リモデリング現象について発生学的、分子生物学的アプローチによりこの詳細なメカニズムを解明することが目的として遂行された。毛包組織に限らず、神経系組織、全身臓器など生体内のあらゆる組織がその恒常性を維持するためには、血管網から過不足なく酸素・栄養が供給されることが必須であり、この血管ネットワーク構築のバランスを保つため、低酸素刺激に応じて組織から血管内皮成長因子(以下VEGF)が放出され、その濃度勾配に応じて血管網は成長することは知られていた。本研究においてわれわれは、血管内皮細胞に白血病抑制因子(HF)が特異的に発現し、その受容体の発現は様々な組織においてVEGFを産生する周囲細胞に特異的であることを見出した。LIF欠損マウスの血管構築を解析したところ、野生型マウスに比べ密な全身で血管網が構築されていた。これは本来血管が出来上がった場所においては、供給される酸素により急激に抑制されるはずのVEGF発現がHF欠損マウスでは著名に亢進していることに起因していた。in vitroの解析でLIFは、低酸素培養下の細胞のVEGF発現を抑制した。これらの結果より、血管内皮細胞は周囲組織のVEGF発現にLIFを介して負のフィードバックをかけることで血管密度を制御していることが証明された(Kubota et.al. Clin. Invest. 2008)。また、毛包組織にも多数存在する組織マクロファージが、細胞外マトリックスのリモデリングを介した血管リモデリングに寄与することも解明した(Kubota et.al. J. Exp. Med. 2009)。
|