Wnt/βcateninとNotchシグナルのクロストークによる骨芽細胞分化調節機構の解明を目的として、主に骨髄間質細胞株ST-2細胞を用いたin vitroにおける実験を行った。Notchシグナルの過剰発現はWnt/βcateninシグナルによる骨芽細胞分化を強力に抑制した。この際、βcateninの細胞内蛋白量や核内局在に変化はみられなかったが、免疫沈降法によりNICD(Notch細胞内ドメイン)はβcateninのC末端を介して複合体を形成することが判明した。さらにChIP-reChIP法によりβcatenin/NICD複合体は、Wnt/βcateninシグナル標的遺伝子のプロモーター上に移行することが明らかとなった。以上の結果より、Notchシグナルは、βcateninの細胞内での動態に影響を与えるのでなく、Wnt/βcateninシグナル標的遺伝子発現を転写レベルで抑制することによって、骨芽細胞分化を抑制することが示唆された。この標的遺伝子の転写抑制機構の詳細は不明であるが、転写活性部位であるβcateninのC末端へのNICDの結合により、転写活性に必要なcoactivatorとβcateninとの結合が阻害される可能性が推測され、今後の検討課題である。Wntシグナルが他のシグナル経路とクロストークする報告はあるが、βcateninが他の経路へrecruitされるのでなく、Wntシグナル標的遺伝子プロモーター上での転写複合体の変化により転写活性が調節される機構はユニークであり、新たなWntシグナル調節機構として重要な意義を持つと考えられる。また骨芽細胞特異的にNotchシグナルを発現するトランスジェニックマウスのライン化は終了しており、このマウスへのLicl投与等によりin vivoにおけるWnt/βcateninとNotchシグナルの相互作用を検討する予定である。
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