研究概要 |
本年度はS.mutansが産生するmutansレンサ球菌の細胞壁のみを特異的に消化する溶菌酵素Am1の結晶構造解析と基質特異性の解明、およびS.gordonii281株の産生するAm1様の溶菌酵素の性状解析および基質特異性の解明を目的とし、以下のとおり実施した。 1.Amlの酵素活性感受性を他の臨床分離レンサ球菌を基質にして検討したところ、一株だけAmlの溶菌活性に耐性を示す株を見出した。この耐性株の細胞壁を精製し、逆相クロマトグラフィーによりペプチドグリカンの解析を行ったが、感受性株との間に差異は見られなかった。さらに、ペプチドグリカンのO-アセチル化によるAm1感受性への影響について検討を行ったが、感受性への関与は見られなかった。 2.Am1の基質結合部位のmaltose融合タンパクの作製を行った。この組換えタンパクを組み込んだ大腸菌を培養し、菌体破砕画分を用いてAmyloseレジンにより精製を行った。その結果、単一のタンパクバンドとして精製できた。現在、結晶構造解析および結合実験に向け大量精製のための予備実験を行っている。 3.S.gordonii281株の培養上清から、S.mutansに対する溶菌活性を指標として、種々のカラムクロマトグラフィーならびに免疫アフィニティー精製法を用いて、S.mutans,S.sobrinus,S.gordonii,S.sanguis特異的溶菌酵素の精製を試みたが、活性のあるタンパクを単離することは出来なかった。 4.そこで、S.gordonii281株のゲノム情報から、Amlと相同性のある遺伝子領域を抽出し、その領域を増幅するためのプライマーを設計し、組換えタンパクを作製した。しかし、この組換えタンパクには溶菌活性が見られなかった。次にS.gordonii281株より染色体DNAを調整し、適当な制限酵素で切断した後、ジェノミクライブラリーを作製し、S.mutans菌体を含有するアクリルアミドゲルで溶菌活性を保持しているクローンのスクリーニングを行ったが、現時点では特異的溶菌酵素のクローニングは成功していない。 このような結果を踏まえ来年度はAm1およびS.gordonii281株が産生する新規の特異的溶菌酵素の基質特異性および酵素活性についてさらに検討を進めたい。
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