本研究では、口腔レンサ球菌の一種で感染性心内膜炎の原因菌のひとつであるStreptococcus gordonii DL1株に発現するシアル酸結合性アドヘジン(Hsa)についての解析を行った。この菌のもつ赤血球凝集活性や血小板凝集能、白血球への付着能が感染性心内膜炎の発症に強く関与していると考えられている。そこで、S. gordoniiのHsa蛋白と宿主細胞との付着メカニズムを明らかにする為に、Hsa蛋白のシアル酸結合領域と考えられているNR2をGST融合蛋白(GST-HsaNR2)として大腸菌の系で作製し、そのリコンビナント蛋白を用いて赤血球レセプターの同定を行った。 最初に、GST-HsaNR2がDL1株と同様な赤血球凝集活性を持つ事を確認した。この活性が、α2-3結合シアリルラクトースにより阻害される事から、Hsaの赤血球レセプターはα2-3シアロ糖蛋白である事が示唆された。赤血球膜に多く存在するシアロ糖蛋白には、glycophorin Aやband 3が知られている。そこで、これらの精製蛋白をdot blotし、GST-HsaNR2をオーバーレイさせ確認した。さらに、赤血球膜を可溶化し、GST-HsaNR2と混合後、Glutathion Sepharoseにてpull-downした。このサンプルをSDS-PAGEで展開後、ニトロセルロース膜に転写し、抗glycophorin A抗体または抗band 3抗体にて検出した。その結果より、これら二種のシアロ糖蛋白は、GST-HsaNR2によりpull-downされる事を確認した。以上より、Hsaの主な赤血球レセプターは、glycophorin Aとband 3である事が示唆された。
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